マインドセット

完璧主義をやめたい人へ。「悲しみ」も「喜び」も混ぜ物だらけ、完璧な幸せなんてない。

完璧にやらないと気が済まない。少しでもうまくいかないと、すべてがダメになった気がする。理想の自分像から少しでも外れると、自己嫌悪に陥る……。

もし、あなたがそんな生きづらさを感じているなら、それはあなたの心が弱いからではありません。もしかしたら、その生きづらさの原因は、無意識のうちに**「完璧」**を追い求めてしまうことにあるのかもしれません。

私たちは、子どもの頃から「ちゃんとしなさい」「完璧にやりなさい」と教えられ、知らず知らずのうちに、すべての物事を完璧にこなすことが良いことだと刷り込まれてきました。しかし、その「完璧」という概念が、かえって私たちの心を縛り、生きづらさを生んでいるとしたらどうでしょうか。

今回は、16世紀のフランスの思想家、ミシェル・ド・モンテーニュの世界的名著**『エセー』**の教えを紐解きながら、その「完璧」という呪縛から解放され、心が楽になる生き方について、具体的な方法とともにお伝えします。この記事を最後まで読み終える頃には、あなたの心はきっと、今よりもずっと軽くなっているはずです。


第1章:完璧な「幸せ」も「悲しみ」も存在しない理由

もしあなたが「完璧な幸せ」や「純粋な喜び」を追い求めているなら、まず知ってほしいことがあります。それは、完璧な感情は幻想であるということです。

モンテーニュは、人間の感情は純粋なものではないと説きました。私たちの感情には、常に何らかの「混ぜ物」が入り込んでいる、というのです。

例えば、新しい趣味に挑戦し、上達する喜びを感じているとき。その喜びの裏には、「うまくいかなかったらどうしよう」「周りの人からどう見られるだろう」といった、不安や恐怖が混ざっているのではないでしょうか。また、誰かに激しい怒りをぶつけているとき。その怒りの中には、相手に対する失望感や悲しみ、あるいは怒りをぶ発散することによる快感などが、複雑に混じり合っているはずです。

モンテーニュはこう語っています。

「人間は本来、無力であり、何者も純粋に味わうことができない。我々の快楽も善も同じだ。これらの中にも必ず何らかの悪や不快が混じっている」

私たちが「完璧な幸せ」だと信じている感情の中にも、実は不快な要素が入り込んでいる。そして、「純粋な悲しみ」だと思っている感情の中にも、何らかの快楽や学びが隠されている。この事実は、私たちが感情を単純に「良い」「悪い」で判断できないことを示しています。

私たちが知らず知らずのうちに、混ぜ物だらけの感情を「完璧なもの」だと錯覚している限り、完璧な感情を手に入れようと努力すればするほど、その理想とのギャップに苦しむことになります。この事実を知ることは、完璧主義という呪縛から解放されるための第一歩となるのです。


第2章:生きづらさを生む「白黒思考」を手放す方法

完璧主義の根底にあるのは、物事を**「白」か「黒」かで判断しようとする「白黒思考」**です。

  • 完璧にできなければ失敗だ
  • 正解は一つしかない
  • 完璧な人間でなければ価値がない

そんな風に、あなたは物事を極端に捉えていませんか?

しかし、モンテーニュは、この世界は決して「白」と「黒」だけで成り立っているわけではないと指摘します。彼は、人間も世の中の出来事も「ツギハギだらけの寄せ集め」であり、「マダラ模様の存在」に過ぎないと言いました。どんなに立派な法律や規範にも、不公平な部分が含まれている。人間も、完璧な善人や完璧な悪人など存在しない。

だからこそ、モンテーニュは私たちに、もっと物事を大雑把に捉える**「鈍感力」**を推奨しました。

「我々が世の中の慣習に従って生きるためには、精神をもっと鈍く、生ぬるい状態にする必要がある。つまり、凡庸であまり鋭すぎない精神の方が物事を処理する上で適しており、何事もうまくいきやすい」

完璧を追い求めるあまり、神経質になりすぎると、些細なことで心が揺らぎ、生きづらさを感じてしまいます。そうではなく、もっと大らかに、**「まあ、こんなものか」**と物事を俯瞰し、あとは運命に委ねる。このスタンスこそが、心が楽になる秘訣なのです。

「私は何を知るか?」というモンテーニュの有名な問いも、この「鈍感力」を身につけるための重要な鍵となります。

「これは絶対に正しい」「これは絶対に間違っている」と安易に決めつけるのではなく、**「本当にそうなのだろうか?」「自分は本当にそのことを知っているのだろうか?」**と、物事の本質を疑い続ける姿勢です。この姿勢は、あなたが白黒思考から抜け出し、より柔軟な発想で物事を捉える助けとなります。


第3章:他人軸ではなく、自分軸で生きるための「心の規範」の作り方

完璧主義に陥りがちな人は、往々にして他人からの評価を気にしすぎます。

「人からどう思われるか」「期待に応えなければ」と、他人の目を基準にして行動してしまいがちです。しかし、モンテーニュは、他人の評価は決して当てにならないと言いました。なぜなら、他人はあなたの「本性」を見るのではなく、表面的な振る舞いや技巧だけであなたを判断するからです。

だからこそ、彼は他人の評価を気にせず、自分の内面に「確固たる規範」を持つことを勧めました。

「私の心のなかにも、確固たる法律と法廷があり、何のためらいもなく私も自分で自分をさばいているのだ」

では、その「心の規範」はどうやって作ればいいのでしょうか?

モンテーニュは、その答えとして**「古典を読むこと」**を挙げました。彼は、人生のあらゆる判断を、ソクラテスやプラトン、セネカといった古代の偉人たちの言葉に頼っていたのです。

古典には、時代を超えて読み継がれる普遍的な真理や、人間の本質が凝縮されています。それは、まるで人生の道しるべのように、あなたが迷ったときに正しい方向を示してくれるでしょう。難しい箇所があっても、無理に理解しようとせず、心が惹かれる言葉に出会ったときに、それを大切にする。そのようにして、楽しみながら古典と向き合うことで、あなたは自分だけの「心の規範」を築き、他人の評価に左右されない、確固たる自分軸を手に入れることができるのです。


まとめ:心を軽くする『エセー』の教え

ミシェル・ド・モンテーニュの『エセー』から学べる、心を軽くする3つの教えをまとめます。

  1. 完璧な感情や幸せは存在しないと知る。 喜びも悲しみも、すべては混ぜ物だらけ。完璧なものを追い求めるのをやめるだけで、心は楽になります。
  2. 物事を白黒つけようとせず、大らかに生きる。 「完璧にやろう」と神経質になるのをやめ、「まあ、こんなものか」と肩の力を抜いてみましょう。
  3. 他人の評価を気にせず、自分の心に規範を持つ。 古典から得た知恵を道しるべに、自分自身の「心の声」に従って生きましょう。

「完璧」という呪縛から解放され、ありのままの自分を受け入れることが、本当の幸せへの第一歩です。モンテーニュの言葉が、あなたの人生を豊かにするきっかけになれば、これ以上嬉しいことはありません。

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